top of page
  • 平井 将秀

GPR30は有望な治療標的


乳癌は女性に最も多い悪性腫瘍であるため(癌発症件数の23%)、世界的に重大な健康問題となっている[73]。エストロゲンはER(+)患者の約3分の2で乳癌の進行を促進するため[74、75]、タモキシフェンなどの選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)の中には、既知のERへのエストロゲン結合を抑えるために臨床的に使用されているものがある。この治療法はER(+)乳癌の進行を遅らせる上で効果的であるが、ER(+)乳癌患者の約25%は抗エストロゲン療法に応答しないため[76]、エストロゲンが既知のER以外の受容体経由で細胞増殖を促進する可能性を考慮すると、既知のERのみの遮断では、エストロゲン誘発性の乳癌細胞増殖を根絶することはできないのかもしれない。そして、ERαおよびERβとは異なる構造および機能を持つ3つ目の特異的ERとしてのGPR30発見が、この仮定をさらに裏付けている。そのため、GPR30がエストロゲンへの高い結合親和性だけでなく、タモキシフェンやICI182,780などのSERMに対する高い結合能も有しているということと、エストロゲンとSERMが拮抗作用なしでGPR30作用を促進するというこれらの重大な事実によって[20]、エストロゲン関連癌進行の新しいメカニズムや、抗エストロゲン療法の新規標的が誕生するかもしれない。GPR30と既知のERの両方に作用する拮抗薬が、良好な治療結果をもたらす可能性がある。

薬剤耐性が癌治療の大きな課題であり、最近実施された2つの研究では、GPR30がこの耐性に関与している可能性が明らかとなった。また、エストロゲンとICI182,780はGPR30-MAPKシグナル伝達経路を通して、シグナル伝達ネットワークとトランスフォーミング増殖因子(TGF)βの機能を阻害したとKleuserらは報告している。そして、TGF-βシグナル伝達の下方制御は、乳癌対象の抗エストロゲン治療への耐性に関与していると考えられ[65]、さらにビスフェノールA関連の化学療法耐性は、乳癌細胞株T47D(ER+/GPR30+)およびMDA-MB-468(ER-/GPR30+)でGPR30に関連し、環境的に妥当な用量のビスフェノールAはGPR30の活性化を通して、ドキソルビシンやシスプラチン、ビンブラスチンなどの化学療法剤の効果を低減することが確認された[66]。

しかし、エストロゲン関連の癌療法におけるGPR30効果に関しては、その基本的メカニズムが依然として不明確であるため、GPR30作用を特異的に阻害する薬剤はまだ開発されていない。そのため、「GPR30は特定の癌進行に不可欠なものなのか」と「GPR30は抗エストロゲン療法および化学療法耐性の原因なのか」という疑問を解明することが重要となる。

GPR30標的遺伝子

c-fosとCTGFは2つのGPR30標的遺伝子であることが報告され、GPR30は乳癌[23]と子宮体癌[45]、卵巣癌[21]、および甲状腺癌[46]のEGFR-MAPKシグナル伝達経路を通してエストロゲン誘発性c-fos発現を増強することが明らかとなった。この作用はERαと無関係であるが、卵巣癌ではERαの共役発現を必要とする[21]。PandeyらはGPR30シグナル伝達による遺伝子発現の変化を調査し、ER(-)ヒト乳癌細胞ではエストロゲンまたはOHT誘発性のGPR30活性化が転写因子ネットワークを引き起こし、さらにCTGFがこの転写因子の標的である可能性を示した[47]。遺伝子発現に対するGPR30活性化誘発性作用の根本的なメカニズムは依然として不明である。

結論

エストロゲン関連の腫瘍発生および進行におけるGPR30の役割は、最近になってようやくその全体像が浮かび上がってきたところであるが、それに関する理解は急速に深まっている。そして、GPR30はエストロゲン誘導性の急激な非ゲノムシグナル伝達を促進するだけでなく、特定の遺伝子転写の調節も行うことが明らかとなっている。さらにGPR30の特異的アゴニストG-1以外には、周知のSERM(タモキシフェンやICI182,780)や環境エストロゲンなども、GPR30に結合して下流のシグナル伝達を活性化し、細胞の増殖、浸潤と転移、およびc-fosとCTGFの発現を調節する。しかし、ERαの共役発現を必要とする卵巣癌以外のほとんどの癌では、GPR30介在作用が既知のER発現に関与していないため、GPR30活性化と下流のシグナル伝達系のメカニズムに関しては、さらに調査を続けていく必要がある。要するに既存の実験的エビデンスは、エストロゲン関連腫瘍の抗エストロゲン治療でGPR30を対象にする必要があるということと、GPR30がエストロゲン関連癌進行の有意な予測因子になるかもしれないということを示唆している。エストロゲン関連の癌におけるGPR30の役割を解明するためには、卓上および臨床研究を積み重ねていかなければならない。


bottom of page