• 平井 将秀

GPR30は低い生存率の新規指標であり、細胞の遊走と浸潤、および転移に関与


細胞遊走は高度に統合された多段階プロセスであり、多細胞器官の発達と維持において中心的な役割を果たしている。たとえば傷害後の組織修復や胚発生に伴う形態形成においては、特定位置への細胞移動を正確に行う必要がある[69]。癌細胞の遊走は浸潤(隣接組織への指示、隣接組織の破壊)や時には転移(他の生体部位への直接的な移動、あるいは血液やリンパ液経由の移動)をもたらすことがあり、原発部位からの癌細胞の散らばりと新たなコロニー形成を可能にする[70]。ちなみに、癌を原因とする死亡総数の90%は、転移によるものである[71]。報告ではエストロゲンまたはOHTによるGPR30シグナル伝達の活性化が、ER(-)乳癌細胞のCTGF誘導経由で細胞遊走を促進し[47]、さらにGPR30は卵巣癌細胞の転移も仲介する[61]。前述の通り、アトラジンはGPR30-EGFR経路を通して増殖を亢進し[61]、卵巣癌細胞のEGFは細胞転移を促進する[60]。その上、子宮体癌細胞株KLEおよびRL95-2ではエストロゲンとG-1がMMP生成を増強し、GPR30への作用を通して細胞浸潤を増進することが、Heらによって示されている[29]。

GPR30は低い生存率の新規指標

上述した通り、GPR30の活性化は乳癌細胞の増殖と進行に影響を与えており、このことは臨床試験結果によって裏付けられている[30]。整復乳房形成術を受けた患者の乳癌腫361例、および正常乳房組織12例を対象とした免疫組織化学分析では、12例の正常組織すべてが、核酸染色なしの強い細胞質内GPR30染色パターンを示した一方で、ERとプロゲステロン受容体(PR)は核内にはっきりと現れていた。しかし、これらの受容体の発現レベルは腫瘍組織によって異なるため、40例の非浸潤性乳管癌では42%がGPR30(+)で63%がER(+)、そして45%がPR(+)であった一方、321例の浸潤性乳管癌では62%がGPR30(+)およびER(+)で40%がPR(+)であった。GPR30がERと強い相関関係にあることが確認された時には(P<0.05)、浸潤性腫瘍の43%がERとGPR30の両方を発現していたが[30]、HER-2/neu(ヒト上皮成長因子受容体2、乳癌の高い攻撃性をもたらすタンパク質)に反比例するERと違い[30、72]、GPR30はHER-2/neuと腫瘍サイズ、および遠隔転移と正の相関を示した[30]。従ってこの結果は、乳癌に関わる低い生存率の予測因子として、GPR30を利用できる可能性を示唆している。さらに興味深いことにこの試験[30]では、既知のER(-)乳房腫瘍の約半数がGPR30発現を保持していた。そのため、この腫瘍(GPR30+/ER-)はGPR30シグナル伝達経路を通してエストロゲンへの応答性を維持しているのかもしれない。乳癌患者(GPR30+/ER-)におけるこの割合を考慮すると、GPR30を標的とした抗エストロゲン治療が選択肢の一つになり得る。従って、ERとGPR30の両方を持つ患者(GPR30+/ER+)にとっては、それらを標的とした抗エストロゲン療法が、単一の受容体を標的とした治療法よりも効果の高いものになる可能性がある。

子宮体癌のGPR30は、その高い発現レベルが癌の悪化と相関しているため、低い生存率の新規指標になると考えられている。Smithら[59]がGPR30とER、PR、EGFR、およびKi-67(増殖マーカー)の発現を調査するために、47名の子宮体癌患者を対象にして免疫組織化学分析を実施した結果、GPR30発現はEGFR発現と正の相関関係にあるものの、PR発現との間は負の相関であることがわかり、さらにGPR30の過剰発現は、子宮筋層への広範な浸潤、高い病理学的悪性度、および攻撃性の高い組織学的亜型を呈する腫瘍で起こりやすいため、低い生存率に関連していることが明らかとなった[59]。また、50例の子宮内膜癌と30個の非癌標本を調査したHeら[29]も同様の結果を報告しており、癌患者のGPR30発現は対照群のものと比較してアップレギュレートを強く受け、子宮内膜癌の病理学的悪性度の上昇に比例してGPR30過剰発現が増強することを見出している。さらに彼らは増殖および浸潤増大による子宮内膜癌進行へのGPR30シグナル伝達の関与も明らかにした[29]。

要約すると、これら2つの一般的なエストロゲン関連癌、つまり乳癌と子宮体癌ではGPR30が腫瘍成長と転移進行に明確に関連しているため、これを低い生存率の指標として利用できる可能性がある。


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